コラム #3

 

日本にはまだ知られていない驚くほどの秘境があり、そこにしか育たない希少な原種や固有種がある。数年前、夫が興奮気味に私に話してくれたのが、「辺塚(へつか)だいだい」を知るきっかけだった。 

製造工場のある鹿児島県南大隅町でさえ、東京住まいの私にとっては遠い場所。

そのさらに奥にある噂の辺塚に先に訪れたのは夫だった。
山の香り、人の温かさ、土地の強さに完全に魅了され、興奮したまま帰ってきた。

その後、娘も夫とともに訪れ、小学生だった娘まで、心を掴まれて帰ってきた。
私は少し遅れて、昨年の春先に初めて辺塚の地を訪れた。

遠い。地図で言えば九州の右下、大隅半島の下の端、山をいくつも越えてたどり着いた、海を見渡す山の中の集落。代々この地で暮らす熊野細 康夫さんから、原種や固有種の植物を守る活動について伺った。

「今ある自然を守る」さらに「受け継がれた土地を次世代に継ぐ」という使命感に触れた。

都市部から遠く離れたこの土地で出会ったのは、洗練された感性と開かれた心を持つ方々だった。
よそ者を温かく受け入れる懐の深さにも驚いた。

 

少し話がそれるが、辺塚に惚れたことは、康夫さんに惚れたことでもある。

康夫さんは、未来への温かい眼差しとぶれない信念、人を信じる純粋さを持つ力強さをもっている。

国内外の植物学博士や学者が注目して訪れる辺塚の、道なき森の奥にある、日本固有の希少な原種へ導く案内人。
植物学の視点から視ると、辺塚は研究のし甲斐のあるような、スゴイものが生きる土地なのだと感じた。
あえて道を作らないのは、誰かに持ち去られてしまうほどの価値がある、かけがえのない植物がそこに存在しているからだと言う。

 

話を戻す。辺塚だいだいは、花の季節に摘花をしなければ秋に実がなり過ぎ、収穫が追いつかない。
実を付けたままにしておくと、猿に食べられたり、木や土を傷めてしまう。
超高齢化が進む限界集落辺塚では、すべてを収穫しきることは難しく、自然の営みと人の手のバランスが常に問われている。
そしてそれが年々とても大変だと。

それを聞いて夫も私も、「自分たちにできることは何だろう」と考えた。
少しでも土地の力になりたい思いと、噂に聞いた希少なネロリが満開に咲く山で過ごせたらと、家族で花摘みをしようとしていた計画を急遽拡大、
製造工場の黒木さんの力を借りて花摘みイベントを企画し、花摘みのボランティアを募集した。

昨年4月の花摘みには80名、11月のだいだい収穫にはKruhiが主催して115名が集まり、春と秋で花も実も収穫した。(辺塚集落の人口は2020年時点で121名)
花が咲き、実がなり、また次の命へつながっていく。
当たり前に思っていた循環は、土地と人の手によって支えられている。
それを体で感じた。

希少な原種との出会い、土地の人との出会い、南大隅町や製造工場ボタニカルファクトリーとのご縁、収穫祭参加者との時間、そして代々守り継いできた前の世代の思い。

そのすべてが円となり、収穫した植物をKruhiにしかできないかたちへと昇華する。
良い土地で育ち、笑顔の中で収穫された花と実。そのエネルギーをプロダクトに閉じ込めることは、私たちにとって大きな喜びであり、やり甲斐でもある。

 

さあ何をつくる。

Kruhiは、単なる化粧品ではなく、未来に役立つ実感のあるパーソナルケアを届けることを常に考えている。
顔に使う化粧品は良いものであふれている。毛髪の悩みは性別や年齢を問わず多くの人が抱えるテーマだ。

私自身、近年、円形脱毛症で顔半分の眉毛とまつ毛を失った経験があり、薄毛による極めて強い心理的ストレスを知った。
10代から白髪もあったが、人に知られるのが嫌で抜いていた。2030代は髪の中がスカスカの状態で、気持ちまでパサパサだった。

人は性別も年齢も問わず、髪、眉毛、まつ毛、髭などで表情を作り、毛髪はコミュニケーションにおいて重要な道具となっている。
誰にでも起こりうる毛髪の悩みや不安を、自分の内に隠すのではなく、前向きに語れるものにしたい。その思いから、頭皮ケアプロダクトの企画をスタートさせた。

毛髪と頭皮を学び進めるなかで、育毛剤の基本は血行促進にあると知る。

辺塚だいだいの花と実を蒸留水にし、肌への浸透性を高める。
頭皮へのアプローチが期待できる厳選した植物エキスを閉じ込める。
指でマッサージしながら頭皮に浸透させ血流が整えば、良い土地に木の根が張るように、髪の未来も変わっていく。

辺塚の森で感じた力強いエネルギーと、人の縁を閉じ込めたこのプロダクトは、頭皮の健康と、不安から解き放たれた未来の笑顔へと循環していく。はず。
(薄毛の改善は、体の細胞を作る食事と生活習慣が最も重要な要素である。)

 

すべてのご縁が重なり、このエッセンスが完成。

原料となる花と実の収量には限りがあり、必然的に生産数も数量限定となる。

それこそが自然のかたち。化粧品原料のほとんどが植物であり、植物には収穫の時期があり、いつでも手に入るわけではない。

今年また、ネロリが咲くだろうか。芽吹きの春を待っている。

 

Text by Ai Iura